借地上の建物賃貸人から土地賃貸借の終了を理由として明渡しを要求された建物賃借人は,立ち退かなければならないか?
建物賃借人と土地賃貸借契約の関係
建物を借りているとき,通常は土地が誰のものかをあまり意識することはないでしょう。
しかし,土地と建物の所有者が同一であるならば意識しなくても問題はないのですが,土地と建物の所有者が別人である場合には,法的関係を意識しておく必要があります。
その必要性が如実に現れる場面が,土地賃貸借の終了に伴って,建物賃貸人から建物賃借人が建物の明渡しを求められる場合です。
この場合,建物賃借人は,立ち退かなければいけないでしょうか?それでも立ち退かなくても良い=立ち退くならば立退料と引き換えにと言えるでしょうか?
結論からいえば,原則としては立ち退かなくても良いと言うことになります。
少し詳細に見ていきましょう。
建物賃借人の原則的な法的地位
建物賃借人は,借地借家法という法律によって厚く保護されています。そのため,基本的には,建物賃貸人から出て行けと言われても原則として立ち退く必要がありません。
これは,法的にいえば,建物賃貸人が建物賃借人に対して期間満了時の更新を拒絶するには「正当の事由」(借地借家法28条)がなければならないとされ,この「正当の事由」というものが容易には認められないためです。
今回問題となるのは,建物の賃貸借契約の元となっているともいえる土地の賃貸借契約が終了した際にも,建物賃借人は同様の暑い保護を受けられるかどうかと言う点にあります。
場合わけしてみていきましょう。
土地賃貸借契約が期間満了により終了し,更新がされず建物買取請求権も行使されない場合
この場合には,建物賃借人は立ち退きを拒めません。いきなり冒頭で言った結論と違ってしまい恐縮ですが,この場合は建物賃借人は保護されません。
ただし,建物賃借人は土地の賃貸借契約の期間など気にしないのが普通なので,その点を踏まえて,最大1年間の相当の期限まで明渡し猶予を受けることができます(借地借家法35条)。ただし,この猶予を受けるには,裁判所の許可が必要です。
なお,ここでいう更新されない場合というのは,土地賃貸人側に土地賃貸借契約の更新を拒絶するだけの正当の事由がある場合だけでなく,土地賃借人側で期間満了時の更新を望まない場合も含まれると考えられます。
ただし,土地賃借人側で更新を望まない場合というのは,通常は合意解約になることがほとんどです。合意解約の場合には,下記に述べるように建物賃借人は立ち退く必要がありません。更新されなかったのか合意解約なのかというのはかなり微妙な判断になるので,具体的に弁護士に相談されることをお勧めします。
土地賃貸借契約が期間満了により終了し,更新がされず建物買取請求権が行使される場合
この場合は,土地賃貸人が新たな建物賃貸人としての地位を承継することになるため,そもそも建物賃貸人から建物賃借人に立ち退きを求める必要がありません。
また,新たに建物賃貸人となった土地賃貸人から立ち退きを求められたとしても,期間満了に際して正当の事由があるか建物賃借人に債務不履行がある場合でない限り,建物賃借人が立ち退くべき法的理由はありません。この場合には,断固立ち退かないと主張するか,立退料の額によっては立ち退いても良いと主張していくことになるでしょう。
土地賃貸借契約が債務不履行により終了した場合
この場合も,建物賃借人は立ち退きを拒めません。また,冒頭と違う結論になってしまいましたが,土地賃貸借契約が期間満了により終了するケースや債務不履行により終了するケースは,あまり多くありません。
それでも,この場合には建物賃借人が立ち退きを拒めないことは注意しておく必要があります。
土地賃貸借契約が合意解約された場合
この場合には,建物賃借人は立ち退きを求められても立ち退く必要はありません(最高裁昭和38年2月21日判決)。その理由を,同判決は次のように述べています。
「&deco(u,,,){なぜなら、上告人と被上告人との間には直接に契約上の法律関係がないにもせよ、建物所有を目的とする土地の賃貸借においては、土地賃貸人は、土地賃借人が、その借地上に建物を建築所有して自らこれに居住することばかりでなく、反対の特約がないかぎりは、他にこれを賃貸し、建物賃借人をしてその敷地を占有使用せしめることをも当然に予想し、かつ認容しているものとみるべきであるから、建物賃借人は、当該建物の使用に必要な範囲において、その敷地の使用收益をなす権利を有するとともに、この権利を土地賃貸人に対し主張し得るものというべく、右権利は土地賃借人がその有する借地権を抛棄することによつて勝手に消滅せしめ得ないものと解するのを相当とするところ、土地賃貸人とその賃借人との合意をもつて賃貸借契約を解除した本件のような場合には賃借人において自らその借地権を抛棄したことになるのであるから、これをもつて第三者たる被上告人に対抗し得ないものと解すべきであり、このことは民法三九八条、五三八条の法理からも推論することができるし、信義誠実の原則に照しても当然のことだからである。(昭和九年三月七日大審院判決、民集一三巻二七八頁、昭和三七年二月一日当裁判所第一小法廷判決、
最高裁判所民事裁判集五八巻四四一頁各参照)。};」
噛み砕いていうと,土地を貸すなら建物賃借人という強い利害関係を持つ者が出てくることも当然予想できるわけなので,そのような人の権利をその人の関知しないところで消滅させることはできません,ということですね。
ただし,期間満了により土地賃借人が更新しないで建物買取請求権も行使しないというケースは合意解約といえるか微妙なケースもあるので,個別具体的に弁護士に判断することになるでしょう。