使用貸借契約でも借主は立退料を求められるか?

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立退料と使用貸借

 立退料が問題となる多くのケースは,借地借家法により借主が強く保護される賃貸借契約について貸主が退去を求める場合です。
 これに対し,使用貸借契約というのは,借主が賃料を支払うことなく建物等を借りることができる無償の片務契約ですから,借主にそこまでの強い保護はされていません。借地借家法は「賃貸借」についての法律であり「使用貸借」には適用されないのです。
 この他にも,賃貸借では貸主である所有者が第三者に賃借物件を売却したような場合でも賃借人は新所有者に対して対抗できる(=賃貸借契約関係を主張できる)のですが,使用貸借の場合には借主は新所有者に対抗できない(=使用貸借契約関係を主張できない)など,賃貸借の場合に比べて使用貸借の借主保護はとても弱くなっているといえます。
 そうすると,使用貸借の借主が貸主から「出て行って欲しい」と言われた場合,立退料を請求できないのかとも思えますが,実はそうではありません。使用貸借契約の借主でも立退料を求められるケースはあります。

使用貸借でも立退料を請求できる場合

 先ほど,借地借家法は使用貸借には適用されないといいましたが,それでは使用貸借契約を規律する法律は何かというと,民法です。民法は,使用貸借契約には,その期間の定めか目的の定めがあることを前提としており,期間の定めも目的の定めもない使用貸借契約は,貸主からいつでも解除できることを前提にしています(民法597条1項,2項,598条2項)。
 そのため,期間の定めも目的の定めもない場合に貸主に退去を求められた使用貸借人は,その退去請求が権利濫用などに当たらない限り,立退料を求めることはできず退去せざるを得ません。
 逆に,期間の定めがあるのにその途中で退去を求められた場合や,目的を設定していてその目的を達成していないのに退去を求められた場合には立退料を求められる余地があります。

使用貸主の退去要求が権利濫用に当たる場合の立退料

 使用貸主の退去要求が権利濫用に当たるのであれば,借主は退去要求に応じる必要はありません。
 では,使用貸主の退去要求がそのままでは権利濫用に当たる場合に,立退料の支払いを申し出ることで権利濫用に当たらないと評価されるということはあるでしょうか?
 実は,このような判断をしている裁判例はいくつかあります。
 リーディングケースとなった大阪高判平成2年9月25日判決は,父の死亡後に母の指示により土地建物を買い受けた娘Xが,その土地建物に母と弟夫婦(Yら)と同居していたが次第にYらとの仲が険悪となり家を出て,その後に母が死亡しその法要を巡ってもYらから冷たい仕打ちを受けるなどしたため,XとYらの間の親族間の信頼関係は完全に破壊されるに至り,Xとしても老後の生活不安が増してきたために,立退料825万円を提供した上で,母の死亡等による使用貸借期間の終了,X・Yd間の信頼関係破壊等を理由に解約を告知し,土地建物の明渡を求めたというものです。
 この事案の原審はXの請求を棄却しましたが,大阪高裁は,使用貸借の明示の目的ではない黙示的にその前提となる事情があった場合に,その重要部分が欠けるに至り貸主に使用貸借の存続を強いることが酷と認められるときは,民法597条2項但書類推適用により使用貸借を解約することができるとしました。
 ただし,大阪高裁は,具体的事情に鑑みて,本件で無条件の明渡請求が権利濫用に当たるとし,850万円の支払いを条件とする限りにおいて権利濫用の非難を免れると判断したのです。
 このように,実務的には,使用貸借の明渡請求の場面では,権利濫用との評価を免れる要因の1つとして立退料が評価されている側面があります。理論的にはかなり興味深いところですが,当事者としては,使用貸借でも立退料を請求できる場合があると理解しておけば良いでしょう。

使用借主の最大の敵は,対象物の売却

 上記のように,使用貸借の貸主の無条件の権利行使を防ぐ方法として,権利濫用の主張から立退料を引き出す方法があります。これに対して,借主として法的にはより弱い立場になるのが,貸主が対象物を売却した場合です。この場合には,すでに述べたように,借主は新所有者に対して対抗できません。
 そのため,原則として新所有者から「出て行け」と言われれば出て行くほかないということになります。
 ところが,このような場合でさえ,新所有者の認識等を問題にして,その明渡請求が権利濫用に当たるため,その非難を免れるためには立退料の支払いが必要であるとする裁判例もあります。例えば,東京高裁平成5年12月20日判決は5000万円の立退料を認め,東京高裁平成30年5月23日は1億円の立退料を認めています。
 このように,使用借主の最大の敵である対象物の売却という方法を取られたとしても,なお立退料の請求をすることができる場合もあるということです。上記2つの事例は,「使用貸借だから諦めなさい」と言われてしまいそうなケースですが,相手の主張は権利濫用だという切り札を使って立退料を得ることができた事例と言えるでしょう(本当は,立退料などもらわず住み続けたかったという可能性もあります)。
 何れにしても,明渡や退去を求められた場合には,無条件で明け渡すべきなのか,立退料をもらえるのかなどを判断するためにも,必ず弁護士に相談された方が良いと思います。

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