立退料は賃料○ヵ月分,はミスリード?

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立退料は,賃料○ヵ月分という表記は正しいか?

立退料に関して,よく賃料○ヵ月分という表記が用いられることがあります。
とても分かりやすいので,よく使われる表現方法ですし,当サイトでも使ってはいるのですが,ちょっとミスリードかなと思う表現方法でもあるのです。

今日はこの点について解説していきたいと思います。

立退料の構成要素

そもそも,立退料というのは,種々の要素が組み合わさって構成される金銭です。
具体的には,借家権価格,移転費用,営業補償,雑費補償,そして正当事由を補充するための上乗せ価格です。
このように,立退料の構成要素を明らかにすると,これらの要素を全て「賃料○ヵ月」で表すことは正確性に欠けるということは分かってもらえると思います。

賃料427年分の立退料?!

賃料○ヵ月分の立退料という表現のミスリード性を調べるために裁判例を調べていたところ,賃料427年分の立退料によって正当事由が補完された例を見つけましたので紹介します。
東京高裁平成元年3月30日判決(判例時報1306号38頁)です。
【事案の概要】
1棟の建物とその周辺の土地を取得したXが,自己使用や賃貸のために高層ビルを建築する必要があるとして,本件建物部分で酒類販売業を営み居住するYに対して,一審がこれを棄却したため,Xが控訴したという事例。
【賃料】
3万1200円
【裁判所の判断】
裁判所は,本件建物があと数年で朽廃に達するであろうことなどを考慮して,1億6000万円(427.4年分)の支払いをすれば正当事由が満たされると判断し,Yに対してXからの同額の支払いと引き換えに建物を明け渡せという判決をした。
【考察】
朽廃というのは建物が朽ち果ててもはや使える状況になくなるということです。もし建物が朽廃に達すると,賃借権は消滅します。つまり,裁判所は,Yの賃借権はあと数年で消滅するとしながら,立退料として1億6000万円の支払いを認めたということになります。
この金額の根拠をもう少し見てみると,判決は金額の内訳のようなものはほぼ示していませんが,

「《証拠略》によれば、被控訴会社は昭和五九年二月一日から昭和六〇年一月三一日の間に九一〇七万九九八四円の売上があり、売上利益一四八二万二一五一円をあげ、被控訴人常盤ら四名に報酬、給料等として合計八四七万二〇〇〇円を支払っていることが認められる。」

としていることから,営業補償的意味合いが強いといえそうです。
会社の売上利益と,報酬,給料の合計額が2300万円強であり,朽廃まで数年という認定から,裁判所は,Yが立ち退くこととなれば営業は廃止することになるであろうと考えて,2300万円×数年分+αという考え方で1億6000万円の立退料額を算定し,これを払う限りにおいてXからYへの立退き請求を認めたということでしょう。

実に賃料427年分以上の立退料額になります。

立退料の額で大切なこと

上記事例は賃料ベースで見たとき427年分ということでかなり特殊なケースではあるものの,やはり賃料ベースで立退料の額を語ることがミスリードなものであることを示していると思います。

立退料の額を算定する際に大切なことは,そもそも立退料の提供で正当事由を満たしうる性質のものか,その場合に立ち退かなくてはいけない賃借人が補償されるべきものが何か,ということです。
上記裁判例は,一審でXの請求が棄却されているように,そもそも立退料をいくら提供しても正当事由が満たされないともいいうるケースであったこと,Yは立退けば長年営んできた酒類販売業を廃止しなければならない蓋然性が高かったことなどが立退料の額を高額化する要因となったように思われます。

立退料の額の相場を示すことが何故難しいのかということをこの記事で少しでも理解してもらえたら嬉しいです。


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