建物賃借人といえども立退料なくして立ち退かなくてはいけない3つのパターン

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原則として建物賃借人はとても強い

 このサイトで何度も繰り返し述べていますが,基本的には建物賃借人というのは賃貸人に対してとても強い地位を有しており,多少の債務不履行がある程度では信頼関係が破壊されたとはいえず解除できませんし,賃貸人は更新拒絶も正当事由がない限りできません。
 そのため,たとえ契約期間が2年などの契約であったとしても,実質的には建物が朽廃(古くなりすぎて建物としての効用を喪失している状態)するまで半永久的に建物を借り続けることができます。
 このように,建物賃借人は賃貸人に対してとても強い地位を有しているため,賃貸人から立ち退きを求められた場合には,立退料を請求できる場合がほとんどです。
 しかし,建物賃借人といえども,どうしても出ていかないと行けない場合というのが大きく分けて3つあります。

建物賃借人の3つの天敵

 1つめは,賃貸借契約が定期借家契約である場合,2つめは,建物賃貸人が土地を賃借している場合に土地賃貸借契約が期間満了により終了し,かつ建物買取請求権が行使されない場合,3つめは,賃貸借契約の開始前(正確にいえば賃借人の対抗要件である引き渡し前)に設定された抵当権等により競売が行われた場合です。
 それぞれ順に見ていきましょう。

1 定期借家契約である場合

 この場合は,契約により定められた期間によって確実に契約が終了するため,期間満了時に建物賃借人が立退料を請求できる余地はありません。あるとすれば,期間満了前に立ち退きを求められた場合ですが,この場合でもそれほど大きな金額を請求できることはなかなかありません。

2 土地賃貸借契約が期間満了により終了し建物買取請求権が行使されない場合

 この場合も,建物賃借人は立ち退きを拒めません。ただし,裁判所の許可を得て明渡しまで1年間の猶予を求めることはできます。詳しくはこちらの記事でも触れていますので,ご参照ください。

3 競売にかけられた場合

 この場合,競売にかけた債権者と建物賃借人のどちらが対抗要件を早く具備していたかによりますが,建物賃借人の対抗要件具備が遅かった場合には建物賃借人は出ていかないといけません。
 一番典型的な抵当権が実行され競売にかけられた場合を想定しますと,抵当権者の対抗要件は抵当権登記であり,賃借人の対抗要件は物件の引き渡し(借地借家法31条1項)です。分かりやすくいうと,抵当権設定前に賃借人になった人は競売後も問題なく住み続けることができ,もし立ち退きを求められれば立退料を請求できることになります。
 他方で,抵当権設定後に賃借人になった場合には,競売後6ヶ月経過した時点で立ち退きを求められると立ち退きに応じざるを得ないということになります(民法395条1項)。また,この間は,建物賃借人は新所有者に対して賃料相当額を支払う必要があります(同条2項)。
 なお,抵当権設定後の賃借人が保護される場合として抵当権者の同意という制度もあります(民法387条)が,これは登記した賃借権に対する保護であることに注意が必要です。

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